時をかける表象

東京大学文科2類。記事と日記に分かれてます。

10.「幼稚園/好きな教科」

2021/03/29 月曜日

 

先週は各学校の特徴と入学した理由について書きました。今週は好きな授業について書いていきたいと思います。ちなみに来週は嫌いな授業について書こうと思ったのですが、特定の個人を傷つけてしまいそうなのでやめておきます。あとここでいう授業は学校での授業に限定したいと思います。塾や予備校の授業はほとんど好きな授業だったし、そもそも嫌いな授業は受講しないからです。

幼稚園に教科という言葉が似つかわしいのかどうかは分かりませんが、私は出席確認の時間が1番好きでした。登校して最初に行われる朝のルーティンです。先生が「○○さん」と名前を呼ぶと、生徒が「はい、元気です」と答える予定調和のやりとりがそこでは行われていました。今になって考えればその時点で少し軍隊っぽい気がするのですが、私が好きだったのはその後の日付確認の時間でした。基本的には先生がカレンダーを提示しながら「今日は何月何日ですか?」と質問し、生徒たちが日付を答える儀式です。そのカレンダーには日付の下に果物や動物が描かれていて、「この動物の名前は?」とか「この果物を英語で言うと?」といった質問を先生がしてくれました。私はその質問にほとんど答えられていて、結構先生から褒められたのを覚えています。当時の私のあだ名は「博士」でした。この先の人生でおそらくドクターと呼ばれることがない私にとって、最初で最後の「博士」です。私は折り紙や粘土などの工作、お絵かきなども得意なつもりでしたが、芸術の性質上、わたしだけ特別に褒められることはありませんでした。それもあって、日付確認の時間に名指しで褒められるのがとても嬉しかったです。答えられるか、答えられないかといったシンプルな勝負を私が好んでいる原体験でもあると思います。日付確認の時間が好きだった理由は、クイズ番組が現代で人気を博している理由にも通じるのではないかと思っていますが、かなり長くなったので割愛します。簡単に言えば、クイズ番組は教育によって出世が決まる競争社会を具現化しているということです。クイズ番組は視聴者同士の競争や視聴者と出演者の競争を促しますし、クイズを通じて知識が増えると、なんだか理想の自分に近づいたような気がします。そして他者との比較により、自分はまだまだだなと思ったり、意外と自分は賢いんじゃないかと自信がついたりします。これは完全に余談ですが、例えばYouTuberなどの職業がもっと一般的になれば、つまり教育によって出世が決まらないと思われるようになれば、クイズ番組も変化していくと思います。教科書の知識に基づいてクイズを作るのではなく、クリエイティブさやひらめきを求めるような、一種の大喜利化が進んでいくと私は予想しています。自分に関係のない分野で出演者が競い合っていても面白くないからです。
話を元に戻します。当時の私にとって、日付確認の時間とは、教育、競争、内省の3つの要素を兼ね備えた時間でした。誰も答えられない問いかけに答えることで、優越感に浸っていたのです。最初は当たり前のように一般教養として先生の質問に答えていましたが、「博士」と呼ばれることが嬉しくなり、もっと正解して、もっと褒められたいと思うようになりました。そのカレンダーは日めくりカレンダーではないので、明日以降の動物や果物がわかっており、英語で言えない動物や果物があると家の辞書で調べたり、両親に聞いたりしていました。なんか抜け駆けしていてズルいと思う人もいるかもしれませんが、事前に調べたかどうかを尋ねられたら、正直に調べたと私は答えます。対策を練ることが悪いことだとは思っていないからです。それよりも腹立たしいのは、自分ができないからといって、それをできる人が何かズルいことをしていると信じて疑わない人がいることです。人間には向き不向きがあって、自分にできないことを当たり前のようにできる人がいるということを知らない小学生にありがちです。小学校の頃はよくこれに悩まされましたが、大人でもたまにこういう人を見かけます。何かができる人とできない人がいる、でもできない人が悪いわけではないんだよと初等教育段階で教えて欲しいです。本当に悪いのは、他人を妬むことで自分の劣等感をかき消そうとする醜い心なのです。
時には辞書で調べながらも「博士」としての務めを果たしていたある日、とてもショッキングな事件が起きました。カレンダーの数日後にヒヨコが描かれていたのです。家に帰って辞書を引き、ヒヨコは英語で何というか調べました。辞書にはchickと書いてあり、その横にチックとカタカナで書かれていました。ちなみに当時使っていた辞書は初級クラウン英和・和英辞典で、今も私の本棚にあります。初版は昭和45年で、背表紙には私の叔父の名前が書かれています。当時はよく和英辞典と英和辞典の記述を見比べて遊んでいました。ヒヨコは英語でチックだと知り、絶対誰も知らないだろうなと思ってワクワクしながら当日を迎えました。本当は「いつもよりハイペースで刻む心臓を悟られないように、いつも通り出席確認を済ませ〜」という感じで細かい情景描写を入れたいところですが、字数も長くなってきたので端的にいうと「ヒヨコは英語で何という?」という質問は聞かれませんでした。先生も知らないからかもしれません。めちゃくちゃガッカリしたのを覚えています。失望感とは、思い描いていた未来との落差を感じたときに抱く感情であると知りました。本来受け取るはずだと思っていた賞賛が、なんらかの事情で手からこぼれ落ちる時、人は失望するのです。

 

 

【Dr.ハインリッヒ】

 

youtu.be

 

ドクターと聞いて連想するものはいくつもあります。Dr.STONEとかドクターマリオとかDr.コトー診療所とかDr.スランプとか、古今東西ゲームの題材になりそうなほど存在します。今日紹介するDr.ハインリッヒは大阪NSC27期の漫才師です。大阪でいえばミルクボーイとかGAGとか、東京でいえばオリエンタルラジオとかトレンディエンジェルとかと同期になります。Dr.ハインリッヒの好きなところはとにかくトガっているところと、言語感覚が異次元なところ、ネタにメッセージ性があるところです。このDr.ハインリッヒは双子なのですが、あえて衣装や髪型で差別化を図り、ネタで双子に触れることもありません。ドクターとつけたのも性別を隠したいという理由らしいです。自分のことを「わたくし」と呼び、ファンのことを「お嬢さん」と呼び、相方のことを「ドクター」と呼ぶ時もあります。全てがアドリブでぎこちないように見えて、実は練習され尽くした言い回しや動作です。メッセージ性はいろんなネタを見て頂ければすぐにわかります。私は「タイムマシン」「顔」など、今回紹介した「波動告知」の単独ライブのネタは特に全部好きです。高熱が出た時に見る夢みたいな世界観です。漫才劇場のメイク動画もディアロークハインリッヒも全て見ました。独自性の塊です。